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Interviewsアスリート・インタビュー

変わるリーダー像 「引っ張る」から「つなぐ」存在へ

理想を掲げて臨んだ新シーズンの船出は、順風満帆だったわけではない。代表経験のある選手を多数抱えながら、序盤から黒星が先行する低空飛行が続いた。多くの新戦力が加わった中で選手同士の関係性を築き切れず、不要な失点を重ねた。

「例えばレセプション(サーブレシーブ)で言えば、誰がどこまで取れるのかっていうのを探り探りで。取りに行きすぎる選手(のポジション)がアウトサイドだったりすると、今度はその選手がスパイクに入れなくなってしまったり」。

数字としては表れにくい「ミス」を減らすには、コミュニケーションを増やすしかない。結果を出すための試行錯誤は、これまでの自身のリーダー像を変容させることにつながった。

愛知県刈谷市にあるジェイテクト体育館での練習中の一幕。実戦形式のトレーニングの最中、主力組のコートに入った柳田は、ことあるごとにチームメートに近づき、身振りを交え言葉をかける。その動きは、体育館の中で誰より目立っていた。

サントリー時代は「先頭に立って引っ張り上げる」ことに重きを置いていた。一方、STINGSでより意識するのは、仲間の声や考えを「聞く」ことだという。

「ジェイテクトは一言で例えると『陽キャラ軍団』。実績もあってそれぞれの立ち位置を持っている選手たちを相手に求められるのは、『引っ張る』ことより選手と選手の間に立って『つなぐ』こと。その辺りが違うなと思って、立ち回りを変えた」。

指示を与えるより、どうしたいのかを問う。どこに問題意識を持っているのかを伺い、共有する。意見を伝えつつも聞き役に徹するために、チームメートのしぐさに気を配り、これまで以上に注意深く動きを観察するようになった。

STINGS主将の本間隆太とはジュニア時代から交流があり、勝手を知り合う仲。「本間さんはパッションでチームを引っ張ってくれる。自分はロジカルを意識している」という住み分けが、個性派ぞろいのチームにはまりつつある。

今季初めて日本でプレーするウルナウトに声をかけることも多い。コミュニケーションの手段としての英語を解しながらも、チームメート間の主要言語を理解できないウルナウトの現状は、ポーランドでプレーしていた当時の自身の姿と重なった。

海外経験があるからこそ理解できること、うまくやれることはある―。積み上げた経験のすべてが今に活きていると、改めて感じている。

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練習中、チームメートに声をかける柳田㊨=愛知県刈谷市のジェイテクト体育館で

守備成績も改善 「狙われても返すだけ」

個人成績に目を移すと、チームが低調だったリーグ戦にあっても、柳田の活躍は群を抜いている。16試合で220を数える総得点はチーム首位、リーグ全体の日本人選手の中でもトップを誇る。

挑戦を求めた守備について、「レセプションの量は(サントリー時代に比べ)体感的には10倍くらい」と苦笑いしながら、確かな手応えも。過去2季のレセプション成功率が4割前後だったのに対し、今季はここまで54.2%を記録。改善傾向は間違いない。

「自分もバレーを長くやっているから、(守備のスキルは)やれば戻るという感触はあった。実際、(レシーブのボールを)返せるようになっている。それでも狙ってくるんだったらどうぞという感じ。返せばいいので」。

一度は失った自信を取り戻したことが、プレー全体の好調につながっているようにも見える。

それでも、2022年の自己採点は「60点」とやや辛口だ。チームや選手同士の関係性構築に時間がかかっていることが主な要因だが、余白の大きさは自身や仲間にかける期待の裏返しでもある。

「リーグ戦で真ん中より下(インタビュー時:10チーム中6位)にいるというのも事実。高いモチベーションを持って、(順位を)ひっくり返せるくらいのエナジーを持ってチームに還元したい。それが、結果として自分のやりたいことにつながってくる」。

チームを勝利させてこそ個人の活躍が評価される。「その順番を間違えてはいけないと思っている」とリーグ後半戦に向け気を引き締めた。

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天皇杯でMVP賞を獲得し、チームメートと並んで笑顔を見せる柳田㊥=東京体育館で

2023年の目標は…

新年の抱負を問うと、少しの逡巡の後、「成長」という言葉を色紙に書き込んだ。

「改めて『挑戦』と書こうと思ったけど、今、まさにその最中なので。挑戦の向こう側に成長があればいい」。

理想像は明確だ。

「アウトサイドのプレーヤーとして、平均以上の結果や数字を出し続けて、さらにもっと上の数字を狙えるような選手。続けられるということが非常に重要だと思っている」。

描く未来には、再び日の丸を背負う具体的な姿は想像していない。それでも、「一日一日、一試合一試合の先がそこに続いていれば」。

30歳を超えて迎えた充実期。柳田のさらなる「成長」に、期待せずにはいられない。

(敬称略)

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2023年の抱負を書き込んだ色紙を手にする柳田=愛知県刈谷市で

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