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変わった意識「ファンから愛されるチームに」

石井の姿勢に感化されるように、「ただ漫然と競技をしているだけじゃいけない」という思いが、宮嶋をはじめとする選手やスタッフたちの間にも広がっていった。誰のために、何のためにバドミントンに取り組むのか―。たどり着いた一つの答えは「社員の方々を始めとするファンに愛され、応援してもらえるチームになろう」という意識の共有だった。

特に力と時間を注いだのが、SNSでの情報発信だ。

2021年夏ごろにインスタグラムのアカウントを開設し、練習の様子を動画や写真で連日紹介した。時にはユーモアも交え、選手の素顔や性格が見える発信を心がけた。チーム一丸の熱心な投稿が功を奏し、瞬く間に多くのフォロワーを獲得。その数はS/Jリーグ参加チームの中では群を抜く29000人(2023年3月時点)に上る。

初期の投稿から使い続けるハッシュタグは「#バドミントンをカッコよく」。業界としては異例のチームの愛称「ジェイテクトStingers」の設定や、マスコットを新設する動きも話題を呼んだ。

競技者以外からも愛され、憧れられる存在になることが、関係者への「恩返し」にもつながる。そう信じて、コート外の活動にも注力を続けている。

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より親しみやすいチームを目指し、考案されたマスコット。「ジェックビー」という名前は公募によって決まった

「足りなかった最後のピース」 盟友・西本拳太が加入

練習時間の増加により、選手たちの実力は確実に底上げされていった。特に宮嶋・小林晃ペアをはじめとするダブルス陣の成長は著しく、上位チームと争える陣容がそろいつつあった。

そんな中、2022年春にさらなる吉報が舞い込む。4月、現役のシングルス日本代表選手で2024年パリ五輪出場を目指す西本拳太の加入が発表された。

宮嶋は心を躍らせた。自身は時を同じくして主将就任の打診を受け、新シーズンに向けて想いを新たにしていたタイミングだった。

宮嶋と西本は埼玉栄高校の同級生。高校3年の夏には桃田賢斗(NTT東日本、元世界ランキング1位)を擁する福島・富岡高校をともに下して団体日本一にも輝いている。

「純粋にまた同じチームでプレーできるのは嬉しかった。それに、彼が『本当に日本一を目指すぞ』という意識と自信をチームに植え付けてくれた。足りない最後のピースがそろった」。

練習中から高次元のプレーを見せ、五輪への意欲を公言し続ける西本は、実戦経験に乏しい若手にとっても貴重な「トップレベルの指標」となった。

ダブルス2試合、シングルス1試合で争う団体戦のルールにおいて、ほぼ確実に1勝が計算できる西本の存在がチームに与える影響は限りなく大きい。宮嶋らダブルス陣の「あとは俺たちが1勝を挙げれば勝てる」という精神的余裕につながり、強気なプレーを生んだ。

IMG_0019.JPG並んで練習する宮嶋㊧と西本拳太=愛知県刈谷市のジェイテクト体育館で

若手の突き上げ…白熱のレギュラー争いの先に

迎えた2022-23シーズンのリーグ戦。通常レギュレーションでの開催は実に3季ぶり。プレーする喜びを取り戻した若手の突き上げは顕著だった。ダブルス陣においては、宮嶋ですらリーグ戦の出場機会を減らすところまで競争は激化した。

下馬評で4強の一角に数えられたBIPROGY(旧・日本ユニシス)とのリーグ第4戦では、市川和洋・馬屋原大樹ペアが日本代表ペアを撃破。チーム史上初のトップ4への扉を開いた。

チーム内での健全な競争は、土壇場の采配にも反映されている。S/Jリーグ優勝決定戦の第1ダブルスに選ばれたのは、前日の準決勝に出場した市川・馬屋原ペアではなく、宮嶋と現役大学生選手の佐野大輔。年明けから練習を開始したペアで、公式戦の出場は初めてだった。

決戦前夜に出場メンバーを確定させた平田の「あの時点で最も勝てる可能性が高いペアを選んだ。驚いた人もいるかもしれないが、練習の様子を見ていれば何もおかしいことはない」という言葉にも実感がこもる。

日本トップ級の選手がそろったトナミ運輸ペアを相手に金星こそ逃したが、一時は大きなリードを奪うなど意地は見せた。

来期のメンバー争いの行方は良い意味で見通せない状況だ。

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S/Jリーグ優勝決定戦でプレーする宮嶋㊨と佐野大輔=さいたま市のサイデン化学アリーナで

明と暗…忘れられない2つの光景

宮嶋にとってのS/Jリーグ優勝決定戦は、昨年11月以来3か月ぶりとなるリーグ戦の舞台だった。久々の出番で期待に応えられず、結果として目の前で歓喜の瞬間を見せつけられた無念は大きい。ただ、チームの変化を象徴するような光景に立ち会えた喜びも確かに胸に残っている。

チームの応援席を背に入ったコートで、反対側の客席を見上げた時だった。「ジェイテクトシャツを着ているファンの姿が数えきれないくらい目に入った」。

振り返れば入団1年目の2017年、日本リーグ2部を戦う中、宮嶋自身が認識できたファンは1人だけだった。

優勝決定戦の後、今も応援を続けるその古参ファンのもとへあいさつに向かった際、掛けられた言葉が胸に染みた。

「『あの時は俺1人だけだったのに、本当にすごいな』って。本当に、2部時代からは考えられないところまで来ている」。

4歳年上で前主将の北林悠、丸4年間ダブルスのペアを組んできた小林、同期で副主将の松村健太は今季限りでユニホームを脱いだ。在籍年次でも、年齢でも、チーム最年長となった。2部リーグ時代の苦労を知る現役選手は宮嶋だけだ。

当時の経験がつらくなかったと言えば嘘になる。それでも「あの経験があったから、今の自分やチームがある。社会人としての所作を身につけられた意味は大きい」とも強く感じている。

来季にペアを組む相手はまだ定まっていない。戦力としての自身の立ち位置は昨年当初に比べれば不安定になった。現役生活の終わりも視界の隅に入ってきている。

自身の役割を再確認する中で「2部時代の環境も、日本一を決める舞台も経験した自分だからこそ、若手に伝えられるものがあるはず」という思いはより強まった。

新たな歴史の礎となるために必要なのは、積み重ねた経験を昇華させること。就任から2季目を迎える主将の成長の軌跡が、日本一への道標となる。

(文中、敬称略)

IMG_0285.JPGチームの練習に参加した高校生に指導する宮嶋=愛知県刈谷市のジェイテクト体育館で

 

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