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順調な歩みに落とし穴…パリ五輪選考大会でまさかの減量失敗

新たなアプローチによる鍛錬は、順調な成果をもたらしているように見えた。五輪種目にはない55㌔級で出場した20226月の明治杯では危なげなく優勝。秋の世界選手権も無失点で制した。

思わぬ落とし穴があったのは、年末の天皇杯だった。パリ五輪の代表選考に関わる重要な大会で、まさかの準決勝敗退。最大のライバルと目された藤波朱理との公式戦初対戦にすら漕ぎつけられなかった。

慣れ親しんだ東京・駒沢体育館のマットに立っても、足に力が入らない。原因は、減量の失敗だった。53㌔級での出場は東京五輪以来。14カ月ぶりの大幅な減量のため、約1カ月をかけてゆっくりと体重を落とそうとしたことが裏目に出た。

「これまでなら、少なくとも大会に入るまでに52㌔台を確認できていたのに、今回は当日でも100㌘オーバーだった」。

何とか汗をかいて規定体重に載せたものの、鍛え上げた肉体を53㌔の体重でコントロールできる段階にはないことを痛感した。初戦の2回戦こそ大差で圧勝したものの、準決勝ではこれまで何度も対戦しながら一度も負けたことがなかった相手の守備を崩せない。気持ちの焦りを立て直すことができないまま、13で力尽きた。

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天皇杯準決勝で敗退した志土地。3位決定戦では白星を挙げた=東京・駒沢体育館で

「家族」に支えられ 3位を死守

失望し、深く落胆する志土地を救ったのはまたも「家族」だった。

「見て見て、こんなに腫れちゃった」

準決勝で敗れて落ち込む志土地に、目の上を大きく腫らした顔で声をかけてきたのは翔大の義理の弟(妹の夫)だった。世界選手権への出場経験もある田野倉翔太。東京にある高校のレスリング部顧問でありながら、昨年、久々に第一線に復帰。全国社会人オープン選手権を勝ち抜き、天皇杯まで駒を進めていた。

田野倉の現役復帰は、翔大が「出場すれば絶対に真優の力になるから」と声を掛けたことがきっかけだと、志土地は知っていた。

田野倉の試合順は、志土地の準決勝の直前。「足がつりながらも戦って、終わった後に腫れた顔で笑わせにきてくれた。明るい気持ちにさせてくれたことが本当に大きかった」と志土地。

翌日の3位決定戦では動かない足に踏ん張りをきかせ、積極的な攻めでフォール勝ち。決着をつけた技は、海外選手から学んだ大技だった。

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現役復帰し、志土地を鼓舞した田野倉翔太㊨。天皇杯グレコローマンスタイル60㌔級では3位に食い込んだ=東京・駒沢体育館で©Sachiko HOTAKA

脳裏に浮かぶ伊調馨の雄姿「挑戦し続ける姿勢見せたい」

天皇杯で3位に終わったことで、優勝した藤波に五輪代表争いで一歩先を行かれたことは間違いない。それでも「焦りは全くない」とうなずく。

減量面での問題も原因が明確である以上、従来通り期間を短くするなど対策を立てて取り組むだけだ。これまで「意識しすぎてしまう」という理由で入念なチェックはしてこなかった藤波の試合映像も、今は前向きな気持ちで積極的に分析できている。

「藤波選手は本当に強い。タックルを防ぐのに、普通の相手の3倍は後ろに引かないといけない。海外の選手とも違ったリーチの長さがある」とライバルを評価する声色にてらいはない。

天皇杯での苦杯を機に、最も得意とするタックルを見直すなど初心に立ち返った。

「気持ちはチャレンジャー。でも、五輪チャンピオンという自覚は天皇杯前より今の方が強くなっている」。

脳裏に浮かぶのは、五輪4連覇を成し遂げた後に休養から復帰し、30代半ばにして東京五輪出場を目指した伊調馨の姿という。

「どれだけすごい成績を残しても、挑戦を続けて自身の限界を塗り替えていく。そんな姿勢を感じてもらえる試合を見せたい」

超えるべきは自分自身。東京五輪とは違う道のりの正しさを証明するべく、最大の難所に挑む。

(文中、敬称略)

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明治杯全日本選抜選手権への意気込みを語る志土地=東京都内で

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