Interviewsアスリート・インタビュー
自分に合わない“王道”
佐藤が“二刀流パラアスリート“としてたどり着いた独自の流儀。夏はトライアスロン、冬はクロスカントリースキー、そしてバイアスロン。季節が巡れば競技も変わる。身体の使い方も、求められる筋力も、鍛える部位もまったく異なる。世界には複数競技に挑むパラアスリートもいるが、日本ではこのスタイルの選手はわずか。なぜなら、夏季・冬季競技を両立するということは、あまりにも過酷すぎるからだ。それでも佐藤は、その道を選んだ。自分に合わない“王道”を捨て、自分だけの戦い方をつくるために。

競技に本格的に挑んだのは大人になってから。周りはジュニア期から競技を始め、十年以上の積み重ねを持つ選手ばかり。基礎体力、スキル、フォーム。全てにおいて「スタートラインが違う」。だから佐藤は気づいた。周りと同じ“正解”を追うことに意味はない。「若い頃から鍛えてきた身体の作り方と、僕の身体の作り方は違う。同じ方法では、絶対に勝てないと思いました」。遅れて始めたからこそ、量ではなく「質」を見極める必要があった。
・自分に無理のないフォーム
・障がい特性に合った体の使い方
・夏季・冬季競技の負荷バランス
・疲労が残る部位の見極め
・トライアスロンの基礎体力を冬に活かす循環
これらが、佐藤のつくりあげたのは、“王道ではないが、自分に最適な道”。
クロスカントリースキーは、全身の心肺と筋力を極限まで使い切る競技だ。トライアスロンは、スイム・バイク・ランを通して、疲労を積み重ねながら最後まで走り切る。どちらも、単体で成立させるだけでも過酷だ。
だが佐藤は、そこに“自分だけの突破口”を見ていた。トライアスロンで鍛えた基礎体力が、冬のスキーに直結する。雪上で鍛えた筋持久力が、夏のトライアスロンのパフォーマンスを押し上げる。互いの競技が互いを強くする循環。これこそが、二刀流で戦う意味だった。
挑戦を、ひとりで終わらせない
モノづくりのジェイテクトと「共創」するという選択。佐藤が貫いてきたのは、周りの“正解”に合わせるのではなく、自分にとっての最適解をつくるという戦い方だった。雪の状態、気温、身体のコンディション。条件が少し変わるだけで、結果は大きく変わる。だからこそ彼は、毎回問い直す。「いまの自分にとって、いちばん良い方法は何か」。改善の心は、競技者だけのものではない。
競技の世界は、結果だけが可視化されがちだが、結果の手前には、言葉になりにくい無数の“工夫”と“改善”がある。その積み重ねを、ジェイテクトのモノづくりとつなぎ合わせ、ともに挑戦していく。佐藤にとってそれは、競技の可能性を広げるだけではなく、挑戦の意味そのものを未来へ開いていく選択でもある。挑戦は、ひとりで抱えるものではない。共に考え、共に試し、共に前へ進む。その“共創の挑戦”が、いま静かに動き出している。
カナダで得た“自分を許す”という価値観。自分のペースで進んでいいという実感。その心の自由があったからこそ、周りと違う道を選ぶ勇気が生まれた。「一般的に正しいと言われるやり方が、僕にとって正しいとは限らない。だから、自分の身体と向き合って、自分の道を作り続けてきました」。競技の苦しさを乗り越える支えは、技術でも、才能でもない。“自分を信じられるかどうか”。その答えを、カナダの日々が教えてくれた。
挑戦は、人生をひらく鍵になる
「やってみないと、わからない」。佐藤が口癖のように繰り返す言葉がある。それは、気合いでも根性でもなく、もっと生活の体温に近い、静かな確信だ。住み込みで新聞配達をし、同じ毎日を積み重ね、「生きていくだけで精一杯」だった時間を知る本人が、自分の足でつかんだ答えだ。
ただ、自分の選択として受け止める。その姿勢が、彼を競技者としても、人としても強くしている。
挑戦の反対は、失敗ではない。挑戦しないことだ。彼の言葉は、その事実をまっすぐに照らす。