Interviewsアスリート・インタビュー
支えられたから、強くなれた
今でこそ日本トップクラスの選手として知られている松雪。しかし、その歩みは決して順風満帆ではなかった。
高校・大学時代、学生カテゴリの大会では表彰台には立てるものの、全日本や国際大会では表彰台の頂点にあと一歩届かない。
「あと1回勝てば優勝」という壁に、何度も阻まれた。
その殻をようやく破ることができたのは、2019年のこと。大学2年生で臨んだ全日本学生選手権、ワールドカップ、全日本選手権と立て続けに優勝を掴み、自身の可能性を証明した。
以降も国内外で安定した結果を残しながら、大学4年生の時に臨んだ全日本選抜選手権で優勝を果たし、世界選手権への出場権を掴み取ることができた。
2022年、双子の妹・成葉さんとともにジェイテクトへ入社。地元・刈谷市に本社を置くジェイテクトは、子供の頃から身近な存在だった。
「至学館時代に寮の同室で過ごした先輩である、東京オリンピック金メダリストの志土地 真優選手をはじめ、2011年全日本選抜選手権女子51kg級で優勝した志土地 希果さん(2015年4月入社、2018年に現役引退・社業に専念)、2016年全日本選抜選手権63kg級で優勝した栄 希和さん(2016年4月入社、2020年に現役引退)といった、ジェイテクトには学生の頃からお世話になっている先輩方が活躍していたので安心感がありました」。
また、至学館時代から現在も指導を受ける志土地 翔大コーチとの信頼関係も厚い。
松雪の強みは、流れをコントロールすること。プレッシャーをかけ続け、相手を場外へ追い込むスタイルを確立したのも志土地コーチである。選手のやりたいことを尊重し、一人ひとりに合った指導を行うことで、彼女の強みを最大限に引き出している。
入社から半年後の2022年10月にスペイン・ポンテベドラで開催されたU23世界選手権大会では年齢的に出場できる最後のチャンスという中で、松雪姉妹は揃ってメダルを獲得。
「応援してくださる方がいるからこそ、それがパワーとなって、苦しい時でも頑張れます。感謝の気持ちでいっぱいです」と、支えてくれる人たちへの想いを語る。
競技生活を支えてくれる会社やスタッフ、応援してくれる人たちへの恩返しの想いが強くなったこともあり、確実にメダルを獲ると臨んだこの大会。
理想的なスタートではなかった。1回戦で敗れ、一度は表彰台から遠ざかったように思えた。それでも気持ちを切らさず戦い抜き、敗者復活戦から巻き返して銅メダルをつかみ取った。
「重量級は、同じ顔触れの中で勝ったり負けたりの世界。1回戦で負けた後、まだ他の選手たちが試合を終えていない中で、自分だけがくよくよしても仕方ない、と気持ちを切り替えられた。自分で自分をコントロールできた試合でした」と振り返る。
勝ちたいという気持ちが強すぎると空回りするので、試合直前もレスリングのことは考えず、雑談をして過ごすことで気持ちを落ち着かせる。
やるべきことをしっかりできれば、結果が必ずついてくることは身をもって知っているからだ。
「続けていれば、必ずチャンスは来る」。ロサンゼルスオリンピックという、“最後の挑戦”に向けて
優勝に手が届かず、これまで何度も“ あと一歩” 」を経験してきた松雪。その中で辿り着いた答えがある。
それは「続けていれば、いつかチャンスは巡ってくる」というものだ。
苦しい時期、辞める選択肢はいくらでもあった。それでも続けてこられたのは、「ここまで頑張ろう」と思ったタイミングで“あと一歩”の壁を乗り越えることができたからだ。
「特別な道具がなく、身体一つで戦う。選手それぞれに戦術や得意技があり、最後まで勝敗が分からないのがレスリングの面白いところ」と、笑顔を見せる。
その言葉を証明するのが、2025年の全日本選手権で鏡選手を相手に見せた、残り1.7秒からの逆転勝利だった。
![]()
この劇的な勝利は、長く続いた“あと一歩”の壁を打ち破った瞬間でもあった。
ここに来るまでに経験した敗戦も数えきれない。その積み重ねがあったからこそ、1勝の意味を誰よりも深く理解している。
そんな松雪の視線の先にあるのは、2028年ロサンゼルスオリンピック。
小学生の頃から憧れ続けてきた夢であり、これが「ラストチャンス」とも位置付けている。
「これからの一戦一戦、自分のレスリングを突き詰めていくだけです」。
6分間の勝負。その一瞬一瞬に、すべてを注ぐ。
勝てなかった試合、届かなかったタイトル。けれど、それはすべて前に進んできた証でもある。
悔しさを原動力に変えて、松雪は再びマットに立つ。