採用情報

お問合せ

毎日の「当たり前」が大きな壁を越える
~カーボンニュートラルへの取り組み~

平野 哲郎(カーボンニュートラル戦略室 室長)
林 典英(花園工場製造技術部プロジェクトマネージャー)
長岡 剛史(花園工場設備管理課 課長)
奥平 憲吾(花園工場設備管理課チーフリーダー)
石橋 誠(花園工場設備管理課グループリーダー)

Interview

ジェイテクトは地球温暖化を防ぎ、気候変動による様々な影響を軽減するべく、2035年度中のカーボンニュートラル(CN)達成を目指しています。

グループを挙げた活動をけん引するのが、愛知県岡崎市にある花園工場です。社が脱炭素施策を本格化させた2016年以降、国内12工場の中で最も顕著な排出二酸化炭素(CO2)削減実績を叩き出し、2021年夏に新設された本社カーボンニュートラル戦略室から唯一「CNモデル工場」として指名を受けました。国内外の工場の模範となるべく課せられた課題は、全社目標より10年早い2025年度中のCN達成。難関に挑む担当者らの試行錯誤に迫ります。
(インタビュー実施:2023年6月@花園工場)

Main Theme

カーボンニュートラル(CN)

何かを生産するなどの人為的な活動をする際、CO2をはじめとする温室効果ガスの「排出量」と植林などによる「吸収量」が等しく均衡している状態を指します。日本政府は202010月、温室効果ガスを原因とする気候危機を回避するため、2050年までのCN達成を宣言しました。

ジェイテクトは20215月、世界各地の生産拠点を含めた事業活動におけるCN達成時期を「2040年」として公表しました。同年8月には社長直轄組織・カーボンニュートラル戦略室(CN戦略室)を新設。全社的な取り組みを加速させ、翌225月に「2035年」への達成時期前倒しを発表しています。2022年度のCO2排出量は、2013年度比35.7%減の584千㌧となっています。

「驚異的」なCO2削減を実現

花園工場は、ジェイテクトグループ内でも指折りの「拡大」を続ける工場だ。

竣工は1990年。以来、社の基幹製品であるパワーステアリングの開発・生産拠点として段階的に規模を広げ、2010年代半ばからは燃料電池自動車(FCEV)関連製品や次世代蓄電デバイスの生産も手掛ける。

「生産高を増やし続けている工場において、これだけの数字改善はまさに驚異的」。

ジェイテクトのCN施策のかじ取り役を担う平野哲郎(44歳、CN戦略室 室長)は、右肩下がりの折れ線グラフが示す値を手放しで褒めたたえる。

花園工場における2021年度のCO2排出量原単位(※内製生産高1億円あたりのCO2排出量)は、2013年度比で38%減。経産省などが努力義務目標とした「年平均1%の削減」を大幅に上回った。2022年度実績でも目標を達成しており、CNモデル工場として義務付けられた2025年度中のCN達成へひた走る。

他の追随を許さない省エネ活動の肝はどこにあるのか。担当者を訪ねて現場を歩き、見えてきたのは「やらされ感の極小化」と「エネルギー削減=生産性向上」という2つのキーワードだった。

hirano.JPG
花園工場のCO2排出量原単位の推移を指差す平野

改革のカギは「やらされ感」の解消

「省エネの必要に迫られる中でも、『やらされること』というのは面白くないし続かない。どうすれば製造現場を含め工場の全員が主体的に取り組めるかを考える必要があった」。

花園工場で20年にわたって省エネ関連施策の事務局を担う林典英(55歳、同工場製造技術部プロジェクトマネージャー)は、大きな転機となった2016年をそう振り返る。

ジェイテクトは、2015年末に採択された温室効果ガス削減に関する国際的取り決め「パリ協定」を受け、翌16年に環境負荷極小化に向けた取り組み指針「環境チャレンジ2050」を公表。合わせてエネルギー削減キャンペーンを全社展開し、各工場の製造ラインにおける消費電力可視化装置の設置などを推し進めた。

この時、花園工場に課されたCO2削減目標は「原単位で年4%」。対して、当時の削減実績は年1%程度。全員参加の省エネ活動を実現するためには、抜本的な意識改革が急務だった。

hayasi.JPG
ジェイテクトが脱炭素への取り組みを本格化した2016年当時を振り返る林

現場への情報共有が好循環の源に

林を中心に考案されたアイデアの一つが、各部署のグループリーダー格を集めて現状の課題と目指す姿を共有するグループを作ることだった。「環境小集団」と名付けられたこのグループには、25人程のメンバーが参画。事務方を交え、定期的に集まる機会が設けられた。

それまで、部署を横断する情報共有の場は2カ月に1度開く環境保全委員会のみ。参加者は基本的に課長級以上で、現場の実務部隊にあたるグループリーダー以下のメンバーにはなかなか情報が伝わりにくいのが実情だった。

現在もCNに向けた主要業務を担う奥平憲吾(53歳、同工場設備管理課チーフリーダー)は、環境小集団の発案者の一人。当時の意図を説明する声色にも実感がこもる。

「自分が昔、現場で働いていた時、会社として省エネのKPIがあるなんて考える機会もなかった。経費削減くらいの意識しかない人と、なぜ省エネ活動が必要でそれが何につながるのかを理解している人とでは全然違う。実感を持って話を聞ける場をつくることは、省エネ活動をより自分事として捉えてもらう機会になると思った」。

20161月の初招集では、「原単位」など基本的な用語から詳しく解説。生産におけるどの工程でどれだけのCO2が排出されているか、といった数字も細かく確認した。生産現場でのエネルギー改善に特化した活動が必要であることを共有し、改善提案も募った。

継続的な小集団活動は、実際の改善活動がどのような効果をもたらしているのかをシェアする場にもなった。同時に導入が進んでいた消費電力可視化装置もうまく活用。これまで確認が難しかった改善提案の結果を「見える化」した効果は大きく、「『もっとこういうことをやってみたい。数値を測ってほしい』という声も上がるようになった」(奥平)という好循環を生んだ。

これらをきっかけに花園工場におけるエネルギー改善提案は増え続け、年平均では200件を超える。2022年度も全社最多提案を記録した製造現場の主体的な関わりが、省エネ実践力の源となっている。

okudaira.jpg
環境小集団の立ち上げ意図について語る奥平

「自立」を促す工夫 エア改善に拍車

「やらされ感」の排除は、現在も重点施策として取り組むエア(※大型コンプレッサーで作られる圧縮空気。機械の駆動源になるなど生産の各工程で使用する)の効率改善業務でも徹底されている。

エア洩れを可視化する装置を使った改善業務のとりまとめを担当する石橋誠(38歳、同工場設備管理課グループリーダー)は、改善が必要な箇所をチェックする際、必ず現場担当者とペアを組むという。

「生産課のメンバーと一緒になってエア洩れを探すことで、装置の使い方やエア洩れの起きやすいポイントをしっかりと理解してもらう。そうすれば、次回からは装置さえ渡せば自分たちでできるようになる。『自立』は改善活動における大きなテーマ」。

2022年度は、1週間かけた集中点検を秋冬に計2度実施。生産現場の自発的な動きにも助けられ、計300以上のエア洩れを発見したという。

isibasi.JPG
エアの効率改善業務について説明する石橋
air.JPG
空気の微音を検知してエア洩れ箇所を可視化する装置。黄色く反応する場所からエアが洩れている

「暑い、寒い、暗い」からの脱却

人員の意識改革と合わせて積極的に進められたのが、老朽化した設備の更新だった。

2016年の脱炭素施策本格化以降、ジェイテクトでは希望する工場拠点の設備投資に対しまとまった予算を準備していた。

「短期間では回収が難しい、と躊躇していた設備の更新も可能になった。今まで暑い、寒い、暗いといった我慢に頼ってきた部分を設備更新で補えるようになった」(奥平、林)という好機を逃さず、省エネ性能の高い小型コンプレッサーやインバーター機の導入を推進した。

一部をガス式から電気式に置き換えた空調機は、デジタル制御システムとアナログな知見を掛け合わせてフル活用している。奥平は毎朝の出勤時、その日の外気温や湿度に合わせ、空調稼働時間を調整して予約をかける。効率的な空調計画により、消費電力削減に成功している。

太陽光発電設備の増設や鋳造工程で使用するバーナーのハイブリッド化といった新たな設備導入に加え、これらの創意工夫が功を奏し、生産工程におけるCO2削減は加速度的に進んでいった。

pc.JPG
空調の稼働時間を予約する奥平。当日の気温や湿度を考慮し、出勤時に専用PCに打ち込んでいる

「エネルギー削減=生産性向上」 3年続けた手作業が生んだ変化

ソフトとハードの両面が磨き上げられていく中で、実施を中断した工夫もある。

例えば、製造ラインごとに消費電力量と原単位の数値を手書きでグラフに書き起こし、非稼働時間の電力消費といったムダがないかを確認し合う作業。製造ラインの消費電力可視化装置の導入以降、3年間続けた日課だった。

余計な消費電力を減らすためのアイデアが生まれるなど、有益な効果はあった。一方で「見える化」された数字は、日々の生産指標として管理している直行率(※生産品の良品割合を示す品質指標)および可動率(※生産設備の実生産時間を示す生産性指標)と連動することもわかってきた。

良いものを安くつくればエネルギー改善につながる―。当たり前にも思える気づきが実証され、人員の動きが洗練された時点で、工数のかかる手作業の日課は中断された。

林は「生産性向上がエネルギー削減につながる、という理解が各生産課のメンバーの中に刻まれた意味は大きい」とうなずく。

mtg.JPG
花園工場製造ラインでのミーティングの様子。かつては手書きのグラフを張り出していた

膨らむ期待 「ジェイテクトを一つに」

2021年夏、CN戦略室から「CNモデル工場」に指定されたことで、花園工場にかかる期待はさらに大きくなった。同年1月に米国・テネシー州の拠点から花園工場に異動した長岡剛史(46歳、同工場設備管理課 課長)は、「2025年のCN達成など絶対無理だ」という指定当初の考えを改めている。

「林さんや奥平さん、石橋さんを始め、花園工場ではしっかりとした知見を持った人材を中心に精力的な活動ができている。アメリカでは電気代が安いこともあって、休日でもエアコンがつきっぱなしということすらあった。花園工場のノウハウや考え方を海外までしっかり展開できれば、本当に大きな意味があると思う」。

CN戦略室室長の平野も「全社のCN達成は、ジェイテクトがエネルギーを通じて一つになることで可能になる。その中核を担うのが花園工場」とうなずいた。

ここで平野が言う「ジェイテクト」とは、国内工場だけでなく、国内外のグループ会社まで内包している。

さらに、CNをキーに広がる輪は社外まで及ぶ。今年2月には、「カーボンニュートラルへの筋道を立てることが難しい」という悩みを抱える取引先企業4社を花園工場に招き、現場見学会と取り組み事例紹介を初めて実施。第2回以降の開催も視野に入れている。

1nagaoka.JPG
アメリカ駐在中の現地工場の様子を語る長岡

「愚直さ」こそ、真骨頂

本社側主導で進む新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と連携したグリーン水素の自社生産・自社消費を進めるプロジェクトなど、先進的な取り組みも形になりつつある。それでも、自力で改善できる余白がなくなってきたのは確かだ。

林は言う。

「(大幅なCO2削減を実現する)大きなアイデアは残っていない。あとはいかに地味な改善を愚直に積み重ねられるか」。

厳しい言葉とは裏腹に、表情に陰りはない。「愚直でまじめな取り組み」こそ、花園工場の真骨頂。

定められた期限まであと3年。試行錯誤とともに歩む軌跡は、CNを至上命題に掲げるジェイテクトグループの道標となるはずだ。

(文中、敬称略)

saigo.JPG
2025年度中のCN達成を誓う(左から)石橋、奥平、林、長岡、平野

一覧へ戻る