第6回:スペック(性能)の意味と見方
今回は電池カタログ等に記載されている性能表記について、ポイントを解説します。
よくカタログやパンフレットには「最大〇〇を実現!」等のキャッチコピーが謳われていますが、これはあくまでも瞬間最大値で、常時この性能を補償できるわけでは無い場合があります。
例えば、製品によっては表記の横に小さく「注」とか「※1」とかの注意書きがあるかと思います。
よく記載されている用語とその意味
・放電容量:単位Ah[アンペアエイチ/アンペアアワー]
電池が蓄えられる電気の量。その値を1時間継続して流し続けられるという意味。
(例)5Ah 5Aの電流を1時間流すことができる容量
・静電容量:単位F[ファラッド]
主にキャパシタ(コンデンサ)が蓄えられる電気の量。
実際の電力量は E=1/2×C×V2 という計算式で算出されます(単位:J[ジュール])
※C:静電容量(単位F) V:電圧(単位V)
※1Jは、1J=1Ws=0.000277Whと変換できます。
(注意)ここでいう電圧は、上限電圧と下限電圧の差を意味します。
例えば、電気二重層キャパシタの場合、上限電圧は2.5V、下限電圧は0V、
リチウムイオンキャパシタの場合、上限電圧3.8V、下限電圧2.2Vの製品が多いです。
この場合のV2の計算は(上限電圧2-下限電圧2)となります。
・時間率
その電池の最大容量を何時間で充放電するかを示したもの。
・サイクル寿命
その蓄電池の寿命を充放電回数の観点から表したもの。
つまり所定の条件(電流等)のもとで、何回充放電できるかを表す。
・Cレート(充放電レート):単位C
その蓄電池が充放電する電流値が、その放電容量(Ah)の何倍かを表すもの。
例えば、1Cはその放電容量の1倍の電流、10Cはその放電容量の10倍、0.5Cは逆に半分。
(例)放電容量10Ahの電池の場合
1Cの電流値は10A、 10Cの電流値は100A、 0.5Cの電流値は5A
・SOC:State of charge 充電状態:単位 %
今その蓄電池の充電状況がどれくらいかを表す。
コップの水に例えると、7分目まで水が入っているとすれば、今のSOCは70%。
ちなみに、SOCは100%に近いと劣化が進み抵抗が増える、0%に近いと
抵抗が増えるという性質があります。
・エネルギー密度:単位Wh /L(又は ㎏)
体積(質量)当たりの蓄えられる電力量。この値が大きいほど、長時間放電できます。
・パワー密度:単位W/L(又は ㎏)
体積(質量)当たりの発揮できる出力値。この値が大きいほど、瞬間的な大出力が可能。
・公称電圧:単位V(ボルト)
その電池から得られる電圧の目安。
キャパシタ(コンデンサ)は電圧と残量が比例するため、公称電圧という概念はない。
・終止電圧:単位V(ボルト)
そのデバイスの放電を終わらせるべき下限電圧。これを超えての放電は劣化を早めることになります。
冒頭でも触れましたが、カタログの表記は総じてそのデバイスの最大性能を表す場合が多いです。どの性能表記も、それを発揮する条件というものが存在します。
ポイントを詳しく見ていきましょう。
SOCと電池の性能
カタログの性能表記欄で寿命や出力の記述時、注釈として「SOC何%時」等の表記がある場合は、その電池が最も長寿命で最も高出力を発揮できるときの「条件」を表しています。
ではなぜSOCを条件として注記する必要があるのでしょうか?
それは、電池の性能はSOCに左右されてしまうからです。※SOCに左右されにくい製品もあります。
端的に言うと、電圧の上限と下限近くでは、劣化が進み、内部抵抗が増え、出力性能が低下するということです。
カタログ記載の寿命や出力の値は、「SOCがどれだけの状態でこれを発揮できるものですよ」という意味です。使用条件によって左右されるため、どんな環境でもカタログ性能を発揮できるわけではありません。
電化製品の販売前など長期保管する場合はSOC50%以下にすることが多い様です。
これもSOC100%にしてしまうと劣化しやすいという性質によるものです。
(保管時は使用(充放電)しないのでSOCが低くても問題はありません)
時間率
次に「時間率」について解説します。
この電池の容量は「10Ah」という表記があったとします。
先に用語解説しましたが、これは10Aの電流を継続(連続)して1時間放電できるだけの電力量という意味です。
逆に充電時は10Aで充電すれば1時間で完了です。
但し、蓄電池にとって大きな電流は、容量と寿命(劣化)に影響を及ぼします。
イメージでいうと、大電流で一気に放電すると、定格容量以下の電力しか使えません。
逆に言えば、小さい電流で少しずつ放電すれば、定格容量の電力を使い切り、しかも劣化も抑えることができます。
例えば30Ahの鉛蓄電池で、注釈に「5時間率」という表記があった場合、この電池を「5時間で放電完了するような6Aの電流を流し続けたときの容量です」と読み解く必要があります。それ以上の電流を流した場合には、30Ahの容量は得られません。
※充電の場合も同じく、短時間で済まそうとすると劣化も進みますし、容量一杯まで充電することができません。
電池はCレートが低ければ低いほど、大きい時間率ほど寿命が長持ちし、またそのデバイスが本来有している容量の上限近くまで充放電することができます。
逆に言えば高いCレートに対応でき、小さい時間率で容量を補償できる電池ほど、寿命が長く、また充電時間を短くできると言えます。
<例 定格容量26Ahの電池の時間率と放電容量>
時間率 | 放電電流 | 放電時間 | 総放電容量 |
---|---|---|---|
20時間率 | 1.4A | 20 | 28Ah |
10時間率 | 2.6A | 10 | 26Ah |
1時間率 | 21.7A | 1 | 21.7Ah |
また、温度も重要な情報です。言葉の意味はそのまま、単位は℃です。
(外国に行くと「℉(華氏)」表記が標準の国もあります)
蓄電池を選定する際は、詳細データをメーカー等にお問合せ頂くのが安心です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、スペック(性能)の意味と見方についてご紹介しました。
次回は、「蓄電池の選定」をテーマにご紹介します。
お楽しみに!
~閑話休題~ 「山と携帯」
最近は便利になり、登山中に携帯電話のGPS機能で道迷いの危険性が大分低くなりました。ですが天候急変も山の常で、以前困ったことがあるので紹介します。
昨年 8 月、中央アルプス宝剣岳に登山した際です。午後から急な雷雨に遭い、一気に気温が下がりました。当日の活動時間は 7 時間弱、写真撮影も 30 枚以下だったので特に気にしてなかったのですが、下山後に確認したら携帯の電池残量10%以下!あっという間に電池切れです。
夏とはいえ標高 2500m以上で雨が降れば気温は 5°C位まですぐ下がります。近場の低山でもっと⻑時間活動しても 30%以上になったことが無いので安心していましたが、とんだ落とし穴です。低温になると電池内の内部抵抗が 増え、同じ駆動をしてもより多くの電力を使います。氷点下でなくともこうですので、皆さんも気をつけましょう!
※ロープウェイの臨時運休を家族に伝えられず、後で大分怒られました。
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